スクールのコラム09  パリのアトリエから生まれたモナコ王妃のドレス

コラム9

 
前回(4/15)のレッスンの際に、刺繡を生かして友人の結婚式のリングピローを創りたいということでご相談を受けました。こんな風にしたいとイメージを伺いながら思わず幸せな気持ちにさせて頂きました。そこで今日は、イメージする事について書いてみたいと思います。 


私たちも、イメージする事の力をまざまざと感じさせられた事がありました。

それはは、ベルサイユ宮殿でルイ14世のご成婚衣装の実物の公開展示が行われ、希少な機会だという事で見に行った時。そこからはじまりました。
美術館に出かける様な気持ちで出かけたのですが、生まれて初めて何十分もの間、一つの作品の前で動けなくなるという“運命のドレス“との出会いを体験しました。





1681年に始まったベルサイユ宮殿の造営事業の時期はルイ14世の絶頂期であったとも言われています。貴族たちをべルサイユ宮殿内またはその周辺に住まわせ、宮殿内には1万人もの人々がひしめいていました。その広大な宮殿内の一室に飾られた衣装は、300年以上も前に創られたとは思えない、生き生きとした強く美しいエネルギーを放っていて‥‥ 視界に入った途端、思わず息をのみました。 







それから3〜40分もの間、美しさを前に幸せで‥‥ただ、ため息がもれるようなひとときでした。王の長く引きずるマントに施された金の刺繡やブレード。何人の職人の魂がこめられたのだろうかと‥‥ 

そして王女のドレスに施された刺繡の美しさに、何人の職人の祝福の思いがこめられているのだろうかと‥‥ 
この時初めて、「服を仕立てる」という仕事も、美に全生命を懸けて魂を込めるという意味で、“命懸け”だったのではないかと、世紀の傑作を前に、ただただ感動しました。そして何度も何度も「いつか‥‥ 生きている間に、こんなものを作ってみたいね。」と同じ様な言葉を交わし、目と心に焼き付けました。

 


 


 
 
それから一年後の夏、モナコ王妃のご成婚が発表され、私たちはカクテルドレスを手がける事になりました。まずひたすらシャーレンヌ妃の写真という写真を見て、どんな色合いがいいか、どんなシルエットがスラッとした体型をより引き立てるか、どんな素材がいいかとイメージを固めていきました。

そして1ヶ月後、これだ!というデザインやカラー、素材、刺繡が決まると、一気に形作りはじめました。ウェディングドレスの仕立てには出来るだけ多くの人の祝福の手がかけられた方が良い。というフランスのジンクス(言い伝え?)にのっとって、インターン生も含めご縁を頂いたすべて方に、約10万枚の極小スパンコールの刺繡や、一つ一つの手仕事になど、何らかの部分に触れて携わって頂きました。多くの方の祝福の想いと共に、こうした機会に触れられる喜びや感激の想いが詰まって、まるで皆の夢の世界が形になっていくようでした。 

約10万枚の極小スパンコールの刺繡




約 1年の時を経て、いよいよ完成したドレスをモナコへ送り出す時が来ました。表布や裏地、スパンコールや様々な副 資材といった材料から形作られていった工程、そしてその間に触れて下さった方々の笑顔。海外へ長い長い旅に出かける友を送り出すように、1年間そこで形作られてきたものが旅立っていく寂しさと嬉しさが
込み上げました。丁寧に梱包しながらスローモーションのようにも感じられる忘れられないひと時が流れました。

完成したドレス:モデル着用



しばらく してモナコからの感謝の手紙が届くと、寂しさも全て喜びになりました。それまでに描き続けてきた王妃の輝きが本当に心の中でキラキラと煌めいている様な気 がして一つのストーリーの素敵な最後を感じる様でした。それは何百枚もの写真を見ながら描いてイメージしていた時から‥‥ いえ、もしかしたら、あのベル サイユ宮殿での「いつか‥‥」と強く心に願った時からはじまっていたのかもしれません。まだまだあの“運命のドレス”には遠いのですが‥‥  いつかあのドレスを超えるほどのものを作っていく事が出来たら‥‥と思います。 

モナコからの礼状



アトリエでは様々な素材やインスピレーションとの“出会い“を大切にしています。例えば、予定していた生地が廃盤になって、生地メーカーから「代わりにこの素材はいかがですか?」と勧められると、どうしても無理でない限りは、そちらで考えてみます。すると、想像以上の仕上がりになり、この方が良かった!という事になったり‥‥。あるいはどうしてもこんな色合いのリボンが欲しいと思っていても、思ったものが見つからない時にすぐに諦めずにいます。そしてふと立ち寄ったアンティークの市場で出会ったり‥‥。


 それは、計画的に制作工程をたどりながらも、どこかで出会いや、天から”与えられるもの”を信じているような‥‥。現代では、便利になって人間の手で出来ない事は少なくなっていますが、それでもやはり自然をはじめとする様々に与えられたものや事に囲まれています。全ての人やもの・事との出会いを“その時”に頂けたのだということに感謝の気持ちが湧くと、かけがえのないものになっていくような気がします。どんなささやかな事でも。まるで”運命”のように‥‥
 




「諦めなければ 出来ない事はない。」というのは、ある先輩に頂いた言葉ですが、本当にそうなのだなと思いました。イメージする事が出来れば形になっていきます。ワクワクする程にリアルに描く事が出来れば「思考は現実である」と言われるように身体も状況も動いていきます。


こんな風に使ってもらえたらな?と喜ばれる所までイメージしながら作っていくのも楽しいでしょう。イメージは出来るだけありありと、リングピローの素材の艶感や、銀糸の光沢の質感に至るまで描いて‥‥。そうした行為自体も、贈る方への気持ちのこもったものとなり輝いていく事でしょう。
素敵な贈りものになりますように‥‥。






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