スクールのコラム06 パリ・オペラ座の美しい煌めきと衣装
コラム06
美しいものを見て涙が止まらなくなった事はありますか?
私は、小さい頃バレエをしていたという友人が、「今や“伝説”になっているルドルフ・ヌレエフ監督の舞台だよ!絶対行くべき!!」と勧めてくれてパリ・オペ ラ座の「白鳥の湖」を見に行った時が、まさに”その時” でした。当日券を求めて並ぶと、残っているのは最前列の後ろ。つまり2列目で‥‥ 値ははりましたが、思いきって買い‥‥ 幕が開いて10分後‥‥ 次々と流れ落ちる涙‥‥。
こんなに泣いているのは私だけかな?と、ふと隣の席を見ると、年配のムッシュも泣いていました。その空間に溢れるエネルギーが、熱くて強く輝いて、ただただ美しいのです。オーケストラの指揮者が導き、一人一人の演奏家の奏でるメロディ。ダンサーが動くたびに呼吸をしているかの様な錯覚に陥るステージ。ダンサーの筋肉の動き。その表現する心。照明が映し出す光と陰。全てのエネルギーが、共鳴し合い溢れ出して自分をも呑み込んでいく様な‥‥ 魂を突き抜けるような美しさが瞬きを忘れてしまいそうな瞳を濡らすのです。
バレリーナによる白鳥オデット=黒鳥オディールの踊り分け、ヌレエフ監督版ならではの王子の数々の見せ場や魅惑的な悪魔の囁き、そして世界の頂点を極めるパリ・オペラ座の壮麗で幻想的な白鳥たちのシーンなど、鳥肌が立ってまるで息が止まってしまいそうな瞬間が何度も押し寄せました。
「演出で踊ったLetestuと Martinezのコンビは素晴らしく、特にLetestu(女性ダンサー)の叙情的かつ高貴なOdette(オデット:ヒロイン)が頭抜けて美しい」と 監督は絶賛。ダンサーの衣装は踊るとかなり露出もありますが、身体や筋肉の動き・オーラ・精神の全てがただただ美しく、もはやセクシーだとかイヤらしさとはかけ離れた次元の女神のようでした。「ダンスは踊る人の魂から見る人の魂に移る芸術」というロシア人の(別の)監督の言葉がありますが、本当にその事を心と身体で感じさせられた様な、“一瞬の様で永遠の時“でした。その後はこの公演は日本でも行われていた様です。
もう10年以上前の事ですが、あの興奮は今も鮮明に蘇ります。
この出会いをくれた友人には感謝しきれません。
ダンスとは違うものの‥‥ 同じ表現者として、いつか刺繡においてもこんな感動的なものを生み出していく事が出来たらと思います。時々違う分野の芸術表現も味わい、アーティストの表現に触れる事は,ぜひお勧めです。刺激を受けリフレッシュにもなるでしょう。
バレエの衣装にも素敵な刺繡をしていきたいですね。
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